広がる香りの重要性

ホテル、アパレルショップや駅ビルなど街を歩いていて、ふわりといい香りに包まれているのに気づいたことがないだろうか。香りによる空間デザインが最近、さまざまなシーンに広がっている。意識しなければ気づかないくらいの淡い香りもあれば、存在感のあるものも。香りに“おもてなし”の心が込められている。(池田美緒)

                 

 ◆季節をイメージ

 大阪・ミナミの「なんばパークス」。外国人観光客などが訪れる2階インフォメーションカウンター周辺には11月、かんきつ系のさわやかな香りがほんのりと漂っていた。「スッキリとした感じで癒やされる。居心地が良くなりますね」と友人と買い物中の大阪市内の主婦、吉本愛さん(31)は笑顔を見せた。

 香りの正体は、カウンター横に今年3月設置された、アロマディフューザー。リフレッシュ効果などが期待できる香りを一日中流しており、11月は甘く爽やかな「オレンジスイート」など3種の精油を配合した香りを提供していた。

なんばパークスでは平成25年から、芳香システムを導入。最も利用客の多い3階北側エスカレーター前など2カ所でも、果実や花など季節をイメージしやすい香りを流している。「同じ香りを買いたい」と問い合わせがあるほど好評で、販売促進リーダーの辰巳砂(たつみさご)悦子さん(29)は「五感で四季を感じられる心地よい施設にしたい」と話す。

 西武鉄道(埼玉県所沢市)でも24年3月から、香りのおもてなしを始めた。現在は所沢駅や池袋駅の改札窓口やトイレに設置。香りは季節で変えており、トラブル相談の多い改札窓口ではリラックス効果が期待できる香りを、トイレには男女の好みに配慮した香りを選ぶなどこだわっている。

 ◆ブランドPR

 香りをブランドのPRに生かす試みもある。

 ザ・リッツ・カールトン大阪(大阪市北区)では24年から、高級感があり落ち着いた印象の香りを、1階のフロントやロビー周辺の空調システムから流している。通風口などは見えないように設置、自然な香りが漂うよう工夫した。

「懐かしい香りだ」とロビーに着いた瞬間に喜ぶリピーター客や、「自宅でもホテル気分を味わいたい」とホテル内のブティックで同じ香りのオイルを買い求める客も多いという。ロバート・セクストン宿泊部長(40)は「客室などは無臭に近づける工夫も重要。しかしエントランスでは、香りの演出でリラックス感を味わってほしい」と語る。

 帝国ホテル大阪でも8年の開業以来、香りのおもてなしを重視。2階メーンロビーへの自動ドアとドアの間の風除室で、桜をイメージしたオリジナルの香りを漂わせている。

 ◆生活に浸透

 「香りを出すことに抵抗を感じていた風潮が変わり、最近は生活の中に積極的に取り入れられるようになってきた」とするのは、全国約1500カ所のホテルやアパレルショップなどの香りのデザインを行う「アットアロマ」(東京都世田谷区)広報担当の武石紗和子さん。

武石さんによると、日本人の香りの好みは時代とともに変化しているという。バブル期には華やかな香りが好まれたが、地下鉄サリン事件があった1995年ごろからは一転して無臭を求めるように。2000年に入ると加齢臭が話題になるなど再び香りに敏感になり始め、2010年代にアメリカの柔軟剤「ダウニー」の流行をきっかけに、香りへの関心が一気に高まってきたという。

 社員が心地よく作業できるよう福利厚生策として取り組む企業も。「ブランドイメージの発信だけでなく、香りの心理的効果を好意的にとらえる人が増えてきたようだ」としている。