アロマの力

http://www.aroma-space.com/
nikkei bbnet抜粋

恐るべき「香り」の販促パワー、顧客との距離を着実に縮める

香りは心と体に働きかけ、様々な力を発揮する。とりわけ、一般消費者を対象にモノやサービスを提供する企業に注目されているのが、集客に効果を発揮し、来店客とのコミュニケーションのきっかけをつくり、購買意欲を促進する香りの販促パワーだ。今回は固定ファン獲得に向けて香りを積極的に活用する事例にフォーカスしてみよう。

LIZ LISA:客と店の距離を縮める

 渋谷のランドマーク「109」は10~20代の女性にとってファッションの殿堂だ。服、靴、バッグ等、今をときめく旬の個性派ブランドがズラリと並ぶ。中でもひときわ強烈な個性を放つブランドが、「LIZ LISA(リズリサ)」である。女の子が好みそうなレースやリボンをふんだんにあしらったガーリッシュテイストのファッションは、若い女性の間で圧倒的な人気を誇り、業界でも注目の的となっている(写真1)。
写真1 左:2010年10月に開催された東京コレクションでは、ショー空間を店舗と同じバラの香りで演出し、LIZ LISAの世界観を表現。つめかけたファンに好評を博した 
右:ついで買いの需要を喚起したLIZ LISAのヒット商品、リネンウォーター(左:3045円)とアロマキャンドル(右:4095円)。店頭と同じ香りを自宅でも楽しめることがヒットの鍵となった
 そんなLIZ LISAの店内を優しく演出しているのがオリジナルの香りだ。2010年6月、LIZ LISAを運営するヴェント・インターナショナルは、LIZ LISAのテーマであるバラをモチーフにした香りの導入に踏み切った。
 LIZ LISAの統括マネージャー・岡村由賀里氏は言う。
「過去にも、LIZ LISAのイメージに合わせて市販の香りをたいたことがあったのですが、すぐに消えてしまって空間に残りませんでした。そこで、心地よく、リラックスできて、しっかり香るという3つの条件を備えたオリジナルの香りを開発することにしました」
 バラの香りを作ることは最初から決まっていたものの、香りを一つに決定するまでが大変だったと岡村氏は振り返る。
「ひと口にバラの香りと言っても、バリエーションが多彩で、人によってイメージする香りがまったく違ったんです。でも、現場で働くスタッフの意見は極力反映したい。そこで40人の店長が出席するミーティングの場で意見をまとめていきました。最終的には候補を3つにまで絞り込み、ディフューザーを使って実際に店舗で試しながら意見を集約して、やっと一つに決めました」
 決定したのは、ローズを中心にゼラニウムやグレープフルーツなど、10種類ものエッセンシャルオイルをブレンドした天然100%の香り。アンティークの什器を使って上品にまとめられた店舗空間に、ほどよくマッチしているのではと岡村氏は自信をのぞかせる。
 導入後の客の反応は予想以上だ。まず客とのコミュニケーションが活発化した。「これ、何の香りですか」と、販売員に声をかける客が増えたという。香りは客と店との距離を確実に縮めている。
 オリジナルの香りを用いたリネンウォーターやアロマキャンドルの売上も好調で、当初掲げた年間売上目標をわずか1カ月半で達成。自宅にいても大好きなブランドの香りに包まれたい――そんな「ついで買い需要」を開拓した格好だ。

香りが不利な立地をカバー

 予期しなかった効果もある。岡村氏は微笑みながらこんなエピソードも披露してくれた。
「札幌の店舗はメインの導線から外れた位置にあって、ちょっと場所が分かりづらいんですが、あるお客様からは『迷っていたら、LIZ LISAの香りが漂ってきたので、それを頼りにお店にたどりつくことができました』と言われたそうです。香りには不利な立地をカバーするナビゲーション力もあるのだと驚きました」
 オリジナルの香りは、新作発表のショー会場でも効果的に使用されている。つめかけたファンの間では「あ、LIZ LISAの香りだ」という声が多数聞かれた。甘酸っぱい上品な香り=LIZ LISA。そんな図式が成立している。香りはLIZ LISAのブランド価値向上に大きく貢献しているようだ。

アパホテルズ&リゾーツ:未開拓の女性客を掘り起こす

 レディースルームのアメニティグッズとして香りを採用しているのが、宿泊特化型ホテルを中心に、全国に80超のホテルを展開するアパグループだ。2010年9月から、都内3つのホテルで導入を開始。現在はさらに拡大し、首都圏7つのホテルでアロマサービスを体験できるようにしている(2011年1月現在)。
 実はアパホテルズ&リゾーツの女性客比率はそう高くない。全ホテル平均で約20%。シングル利用に限定すると十数%だ。にもかかわらず、女性客を対象とした香りサービスの採用に踏み切ったのはなぜだろうか。
 アパグループ・事業企画室の三竿純一氏は言う。
「ひと言で言えば、それまで手薄だった女性客の開拓です。アパホテルというと、男性利用の印象が強いのですが、快適な眠りの提供をコンセプトに掲げる我々のホテルは女性にも支持されるはず、そういう思いがありました。いま当社では、レディースルームを新設し、『明日はもっとキレイになる』と『癒し』をテーマに、女性対応のアメニティを充実させていて、アロマグッズもその一環なんです」
 レディースルームの備品は、ナノスチーマー、マイナスイオンドライヤーといった人気の美容家電に、スキンケアセット、フェイシャルマスクやネイルパッドなど、まさに至れり尽くせり。そこに加わったのが、天然アロマとストーンタイプのディフューザーだ。
 アロマは、質の高い睡眠をもたらすとされる「スリーププラス」と、リラックス効果が期待される「ストレスマイナス」の2種類。宿泊客には、チェックイン時にバスソルト5種、アロマセット2種のうちから、それぞれ一つずつを選んでもらうシステムだ(写真2)。
写真2 上:レディースルームプランの宿泊客はチェックイン時にアロマセット2種、バスソルト5種の中からそれぞれ一つずつ選択できる
左:レディースルームの部屋には浴衣の代わりに、ワッフル地のパジャマが用意される。上に置かれるのはアパホテル名物の折り鶴。利用客を温かく迎えるべく、必ずくちばしが入口を向いている
右:アパホテルのレディースルームで提供されるアロマセットの「スリーププラス」(左奥)と「ストレスマイナス」(右奥)、手前はストーンタイプのディフューザー
アパホテル・東京板橋支配人の宜野座茉莉(ぎのざ・まり)氏は「『どちらのアロマになさいますか』とお尋ねした瞬間、それまで仕事モードだったお客様の表情が女性モードにパッと変わります。インターネットの投稿欄にも『香りのおかげで快眠できる』『安心感がある』という声がたくさん寄せられるようになりました。香りに対する女性の関心は本当に高いんです」と言う。
 備品の充実にコストがかかるため、レディースルーム単体では収益源とは考えていないが、サービスの充実ぶりは口コミで徐々に浸透し、着実にリピーターが増えてきた。
 三竿氏は今後の展望について「あせらずじっくり、企業全体のブランド力アップを見込んでいます。仕事も大事だけれども美容にも気を配りたい女性に受け入れられるよう、立地を慎重に選びつつ、徐々に拡大していきたい」と結んだ。

箱根・富士屋ホテル:婚礼実績を飛躍的に伸ばす

 ホテル業界は、いま香りの空間演出が人気を集めている。読者の皆さんの中にも、仕事先で訪れたホテルでいい香りがしていて気持ちがリフレッシュできた、という経験はないだろうか。
 神奈川県有数のリゾート地、箱根の山あいにあって、創業130年を超える老舗ホテル、箱根・富士屋ホテルもその一つ。2008年よりフロントやエレベーターホールなどの共有空間を中心に、館内14箇所を天然アロマでブレンドした、オリジナルの香りで演出している。
 同ホテルが掲げるコンセプトテーマは「Home Sweet Home(もう一つの我が家)」。そこで香りにも、ヒノキやローレル、タイムといったウッド系のアロマをブレンドし「癒し」や「くつろぎ」、「温かみ」や「安心感」を表現している。
 しかし、同ホテルのケースで興味深いのは、その香りの戦略的な使い方だろう。
富士屋ホテルでは、オリジナルアロマを館内に導入するのとほぼ時を同じくして、ブライダル資料を客に送付する際に、アロマのミニボトルも同封した。そうすれば、ホテルの香りをいち早く自宅で体験してもらえるのではないか、との読みがあった。その上で、ホテルを見学に訪れたときに同じ香りをかげば、懐かしさにも似た安心感をホテルに抱いてもらえるのでは……と。
写真3 箱根・富士屋ホテル内のショップで販売されている同ホテルのオリジナルブレンドアロマ。右はアロマオイル5mlの単品(1260円)。左は車専用ディフューザーとアロマオイルとのセット商品(2940円)
 この戦略は見事に当たり、08年、09年と同ホテルの婚礼実績は飛躍的に伸びた。07年が205組だったのに対し、08年は304組、09年が360組と聞けば、伸び率がいかに大きいかが分かるだろう。まさに、記憶に残すという香りの特徴を効果的に利用した戦略だったといえる。
 香りをきっかけに客とのコミュニケーションも増え、ホテル内のショップで販売しているオリジナルアロマボトルや、車内で使えるディフューザー(シガーソケット挿入タイプ)とのセット商品の売れ行きも順調だという(写真3)。アロマを求めてわざわざホテルに足を運ぶ客もいるほどだ。
 癒しとくつろぎを提供するホテルで、香りが果たす役割は無限大といったら少々大げさだろうか――。
(取材/文 ライター・三田村蕗子)